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ぼちぼち のんびり ゆっくりと
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久しぶりにお話を書きました。
ぎこちなさが目立ってかなり恥ずかしいのですが、今の私の精一杯の作品です。
よろしければ、どうぞ。
「彼岸花、ひとつ」
カラカラと玄関の開く音がした。
「あら、おかえりなさい」
「ん……」
外から帰って来たあなたは、ムスッとした顔で頷いた。
そして、靴を脱ぎ家に上がると、持っていたソレをすっと私に差し出し、そのままスタスタと自分の部屋へ行ってしまう。
ちらりともこちらを振り返りもせずに。
娘も息子も、
「お父さんが何を考えているかさっぱりわからない」
と、ことあるごとに言うけれど。
私には、わかる。
あれは照れているのだ。
「ねえ、おまえもそう思うわよね」
私は、先程あなたから渡されたソレを見つめ、ふふと笑った。
無造作に新聞紙に包まれたソレは。
……真っ赤な真っ赤な彼岸花だった。
私は昔から彼岸花が好きだった。
気味が悪いとか、不吉だとか、いろいろ言われているけれど。
あの燃えるような花火のような力強さが好きなのだ。
そう言うと、皆は嫌そうな顔をする。
けれど。
あなただけは変わらなかった。
「そうですか」
そう、ぽつりと言っただけ。
不思議な人。そう思ったのを覚えている。
それから、あなたは決まってこの季節になると、彼岸花を私にくれた。
食料不足の時、彼岸花の球根すらも大切な食料だったから、いただくのも大変だったでしょう。
何より、田んぼを害虫から守ってくれている健気な花だから、たくさん摘むのはかわいそうだとあなたは言った。
だから一輪だけ。
毎年毎年、あなたは律儀に私にくれる。
私は彼岸花をもらうたび、今年もあなたからもらえたことにほっとするのだ。
いつまで続けられるのかわからないけれど。
もう少し続いて欲しいと願う。
「おい」
「え?」
どのくらい時間が経ったのでしょう。
どうやら私はしばらく玄関先でぼうっとしていたようです。
「大丈夫か?」
いつの間にか近くに来ていたあなたが心配そうに尋ねるので、私はにこりと笑いました。
「大丈夫ですよ。さあさ、お昼の準備をしますね。もう少し待っていて下さい」
「ああ、わかった」
あなたは、安心したのか、ゆっくりと居間の方へ歩いていく。
随分と年をとったあなたの背中を見ながら、私は台所へ向かう。
お昼は何にしようかと考えながら。
そして、持っていた彼岸花に、ふと、話しかけた。
「今年も咲いてくれてありがとう」
「ひまわり、のぞみ」
トッティさんは、町で小さな花屋さんをしています。
お店のすぐ裏にある広い畑で、トッティさんが心を込めて育てた花たちを売っているのです。
めずらしい花は少ないですが、朝一番に摘み取った花は、とても新鮮で水々しいと、町で人気の花屋さんです。
そんなある日。
朝早くに摘み取った花たちをかかえ、トッティさんは店にやってきました。
ちょっとふっくらしているトッティさん。もうすでに汗をかいています。
トッティさんは、タオルで汗をふきながら、三個の大きなバケツにたっぷりと新鮮な水を入れました。
そして、先ほど摘み取った花を、一本一本傷がないか確かめながらバケツに入れていきます。
大切な花たちですから、それはもう真剣です。
全て入れ終えると、今度はお店のドアを開け、中に入れていた植木鉢を外に出しました。
こちらも一つ一つ花や葉の具合を確かめながら、水をやっていきます。
気持ち良さそうに水を浴びる植物達。
トッティさんも思わず微笑んでしまいます。
いつものように水をやり。
いつものように鉢を並べ。
いつものようにほうきで店の周りと中を掃除をし。
いつものように店の中にある、はと時計がポッポーと八回鳴ったら、開店の合図です。
トッティさんは、空を見上げました。
透き通った青い空。
大きな雲が、ゆっくりと風に流れていきます。
「さあ、始めようか!」
トッティさんは空に向かって、言いました。
そんなある日のこと。
夕方になって、トッティさんのお店にかわいらしいお客様が来ました。
近所に住む田村ちひろちゃん。あだ名はちいちゃんです。
学校から走って来たのでしょうか。ランドセルをせおったまま、はあはあと大きく息をはずませていました。
「ちいちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは、トッティさん! あのね、ちひろ大事なお願いがあるの!」
「お願い?」
「うん!」
ちいちゃんは真剣な顔で大きく頷くと、ランドセルの中からかわいらしいピンク色の封筒を取り出しました。
そして、その中からころんと小さな何かを手のひらにのせ、トッティさんに見せます。
「おやおや、これはひまわりの種だね」
「そう。昨日ね、のぞみちゃんからお手紙が来たんだ。その中にこの種が入っていたの」
のぞみちゃんは、ちいちゃんの家の近くに住んでいたお友達です。年も同じでとても仲良しでした。
だけど、去年の冬にお引越しをして遠くへ行ってしまったのです。
「この種、のぞみちゃんの分身なんだって」
「分身?」
「うん。だからこのひまわりを私だと思って育てて下さいって。でも、ちひろ、植物を育てるの苦手でしょう? 枯らしちゃうかも」
「ああ、そうだったねえ」
トッティさんはふと思い出しました。
去年の夏休みも育てていた朝顔も枯らしてしまって、ちいちゃんが泣きながらお店に来たのです。
「だからね、このひまわりは絶対失敗できないの。夏休みにはのぞみちゃんも帰って来るし、ちゃんと育ててのぞみちゃんに見せて上げたいんだ。トッティさん、お願いします。このひまわりを育てるの手伝って下さい!」
そう目をキラキラさせて話すちいちゃんに、トッティさんはふむと首をかしげました。
「……ひまわりはね、虫がつきやすくて育てるのが大変だよ。がんばれるかい?」
「うん。がんばる。だって、この子、のぞみちゃんだもん!」
「のぞみちゃん?」
「そうよ。だって、のぞみちゃんの分身なんでしょ? だったらこの子ものぞみちゃん!」
そう元気に答えるちいちゃんに、トッティさんはふふふと笑いました。
「なるほどなあ。それなら、二人でがんばって育ててみようか」
「ありがとう、トッティさん!」
ちいちゃんは、トッティさんのお店の畑でのぞみちゃんを育てることにしました。
朝学校へ行く前に、学校からの帰り道に、ちいちゃんはトッティさんのお店に必ず行きました。
新鮮なお日様の光とお水をたっぷりあげて。
少し大きくなったひまわりを植木ばちから地面に植えかえて。
葉っぱに虫がついていないか気をつけながら。
ちいちゃんは、のぞみちゃんのお世話を一生けん命しました。
そして、種を植えてから二ヶ月。
のぞみちゃんはちいちゃんの背をおいこし、とうとうきれいな花を咲かせたのです。
「きれいに咲いたでしょう?」
「うん、きれい!」
夏休みになって人間ののぞみちゃんが帰って来ました。
早く早く見せたくて、ちいちゃんはすぐにのぞみちゃんをトッティさんのお店へ連れて行きました。
「がんばって咲いたんだよ、この子。葉を虫に食べられたり、なかなかつぼみが開かなくてやきもきしたけど。ね、トッティさん」
「そうだねえ。でもちいちゃんと同じがんばりやさんだったから、心配はしなかったなあ」
トッティさんは満足そうにふふっと笑います。
のぞみちゃんも大きく育ったひまわりをうれしそうに見上げて言いました。
「そっかあ。でも、とってもかわいいね」
「うん、だってのぞみちゃんだもん」
「え?」
「実はね、この子にのぞみちゃんって勝手に名前つけちゃったんだ。ごめんね」
そう、ちいちゃんがあやまると、のぞみちゃんは目を丸くして言いました。
「良く知ってたねえ、ちいちゃん!」
「え?」
「この子、のぞみって言うんだよ。名前」
「そうなの?」
「うん。ひまわりのぞみって言う品種なんだって。お父さんが見つけてくれたんだ。でも、私の今の家マンションだから植えられなくて。だから、ちいちゃんにお願いしたの」
「そっかあ。この子、本当にのぞみちゃんだったんだ。ねえ、トッティさんは知ってたの?」
おそるおそる聞くちいちゃんに、トッティさんは笑いながらこくりと頷きずきました。
「もう、知ってたら教えてよ!」
プンプンとちいちゃんが怒ります。
「まあまあ、いいじゃないか。この子はのぞみちゃんなんだから」
「そうだよ。ありがとね、ちいちゃん」
「……しょうがないなあ」
「空に祈る」
飛行機嫌いの彼が今朝海外へ旅立だった。
もちろん飛行機で。
本人かなり嫌がって、もう子ども並みに大騒ぎしていたけれど。
惚れた弱みか何なのか。
恥ずかしいなあと思いつつ、私は言った。
「祈ってあげるから」
「え?」
「飛行機が落ちないように、ちゃんと空に向かって祈ってあげるから」
安心して行って来い!
そう言い放った私に、彼は涙目になりながら飛行機に乗り込んだ。
それから。
私は気が付くと、いつも空を見上げている。
国境なんてちっともわからない。
空はいつだってどこだって広がっている。
この空のどこかに彼がいつも見ている空があるのだ。
元気かな?
笑ってる?
いじめられてない?
美味しいものちゃんと食べてる?
いつだって彼が彼らしく過ごせていますように。
どうか幸せでありますように。
祈りは、いつしかそんな祈りに変わりながら、
この広い空を漂って流れる。
おそらく。
彼の元へと。
たどたどしく飛んでいた幼いツバメが、今では華麗に力強く空を舞っている。
時間はちゃんと訪れ、過ぎ去って行くのだ。
ねえ。
一生分の空を見たから、
そろそろ帰って来ませんか?
メールではなかなか伝えられないから、
顔を見てちゃんと話をしたいよ。
私は相変わらず空を見て、
そんな風に祈るのだ。
お帰りなさい。
そう彼に言うために。
数日後。
彼からメールが届く。
「来月、やっと帰れそうです」