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ぼちぼち のんびり ゆっくりと
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「ひまわり、のぞみ」
トッティさんは、町で小さな花屋さんをしています。
お店のすぐ裏にある広い畑で、トッティさんが心を込めて育てた花たちを売っているのです。
めずらしい花は少ないですが、朝一番に摘み取った花は、とても新鮮で水々しいと、町で人気の花屋さんです。
そんなある日。
朝早くに摘み取った花たちをかかえ、トッティさんは店にやってきました。
ちょっとふっくらしているトッティさん。もうすでに汗をかいています。
トッティさんは、タオルで汗をふきながら、三個の大きなバケツにたっぷりと新鮮な水を入れました。
そして、先ほど摘み取った花を、一本一本傷がないか確かめながらバケツに入れていきます。
大切な花たちですから、それはもう真剣です。
全て入れ終えると、今度はお店のドアを開け、中に入れていた植木鉢を外に出しました。
こちらも一つ一つ花や葉の具合を確かめながら、水をやっていきます。
気持ち良さそうに水を浴びる植物達。
トッティさんも思わず微笑んでしまいます。
いつものように水をやり。
いつものように鉢を並べ。
いつものようにほうきで店の周りと中を掃除をし。
いつものように店の中にある、はと時計がポッポーと八回鳴ったら、開店の合図です。
トッティさんは、空を見上げました。
透き通った青い空。
大きな雲が、ゆっくりと風に流れていきます。
「さあ、始めようか!」
トッティさんは空に向かって、言いました。
そんなある日のこと。
夕方になって、トッティさんのお店にかわいらしいお客様が来ました。
近所に住む田村ちひろちゃん。あだ名はちいちゃんです。
学校から走って来たのでしょうか。ランドセルをせおったまま、はあはあと大きく息をはずませていました。
「ちいちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは、トッティさん! あのね、ちひろ大事なお願いがあるの!」
「お願い?」
「うん!」
ちいちゃんは真剣な顔で大きく頷くと、ランドセルの中からかわいらしいピンク色の封筒を取り出しました。
そして、その中からころんと小さな何かを手のひらにのせ、トッティさんに見せます。
「おやおや、これはひまわりの種だね」
「そう。昨日ね、のぞみちゃんからお手紙が来たんだ。その中にこの種が入っていたの」
のぞみちゃんは、ちいちゃんの家の近くに住んでいたお友達です。年も同じでとても仲良しでした。
だけど、去年の冬にお引越しをして遠くへ行ってしまったのです。
「この種、のぞみちゃんの分身なんだって」
「分身?」
「うん。だからこのひまわりを私だと思って育てて下さいって。でも、ちひろ、植物を育てるの苦手でしょう? 枯らしちゃうかも」
「ああ、そうだったねえ」
トッティさんはふと思い出しました。
去年の夏休みも育てていた朝顔も枯らしてしまって、ちいちゃんが泣きながらお店に来たのです。
「だからね、このひまわりは絶対失敗できないの。夏休みにはのぞみちゃんも帰って来るし、ちゃんと育ててのぞみちゃんに見せて上げたいんだ。トッティさん、お願いします。このひまわりを育てるの手伝って下さい!」
そう目をキラキラさせて話すちいちゃんに、トッティさんはふむと首をかしげました。
「……ひまわりはね、虫がつきやすくて育てるのが大変だよ。がんばれるかい?」
「うん。がんばる。だって、この子、のぞみちゃんだもん!」
「のぞみちゃん?」
「そうよ。だって、のぞみちゃんの分身なんでしょ? だったらこの子ものぞみちゃん!」
そう元気に答えるちいちゃんに、トッティさんはふふふと笑いました。
「なるほどなあ。それなら、二人でがんばって育ててみようか」
「ありがとう、トッティさん!」
ちいちゃんは、トッティさんのお店の畑でのぞみちゃんを育てることにしました。
朝学校へ行く前に、学校からの帰り道に、ちいちゃんはトッティさんのお店に必ず行きました。
新鮮なお日様の光とお水をたっぷりあげて。
少し大きくなったひまわりを植木ばちから地面に植えかえて。
葉っぱに虫がついていないか気をつけながら。
ちいちゃんは、のぞみちゃんのお世話を一生けん命しました。
そして、種を植えてから二ヶ月。
のぞみちゃんはちいちゃんの背をおいこし、とうとうきれいな花を咲かせたのです。
「きれいに咲いたでしょう?」
「うん、きれい!」
夏休みになって人間ののぞみちゃんが帰って来ました。
早く早く見せたくて、ちいちゃんはすぐにのぞみちゃんをトッティさんのお店へ連れて行きました。
「がんばって咲いたんだよ、この子。葉を虫に食べられたり、なかなかつぼみが開かなくてやきもきしたけど。ね、トッティさん」
「そうだねえ。でもちいちゃんと同じがんばりやさんだったから、心配はしなかったなあ」
トッティさんは満足そうにふふっと笑います。
のぞみちゃんも大きく育ったひまわりをうれしそうに見上げて言いました。
「そっかあ。でも、とってもかわいいね」
「うん、だってのぞみちゃんだもん」
「え?」
「実はね、この子にのぞみちゃんって勝手に名前つけちゃったんだ。ごめんね」
そう、ちいちゃんがあやまると、のぞみちゃんは目を丸くして言いました。
「良く知ってたねえ、ちいちゃん!」
「え?」
「この子、のぞみって言うんだよ。名前」
「そうなの?」
「うん。ひまわりのぞみって言う品種なんだって。お父さんが見つけてくれたんだ。でも、私の今の家マンションだから植えられなくて。だから、ちいちゃんにお願いしたの」
「そっかあ。この子、本当にのぞみちゃんだったんだ。ねえ、トッティさんは知ってたの?」
おそるおそる聞くちいちゃんに、トッティさんは笑いながらこくりと頷きずきました。
「もう、知ってたら教えてよ!」
プンプンとちいちゃんが怒ります。
「まあまあ、いいじゃないか。この子はのぞみちゃんなんだから」
「そうだよ。ありがとね、ちいちゃん」
「……しょうがないなあ」