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さらさら日記

ぼちぼち のんびり ゆっくりと

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お話「おじいちゃんの庭」

お話「おじいちゃんの庭」


チカがおじいちゃんの家に泊まりに来た日のことでした。
朝早く、チカはトイレに行きたくなって、部屋を出ました。
部屋の外はうっすらと寒くて、急いでお布団のある部屋に戻ろうとした時、
ふと庭におじいちゃんが立っているのが見えたのです。
おじいちゃんの庭はとてもきれいで。
いろんな木や花があって、季節ごとにいろんな色になります。
何よりチカが一番好きなのは、庭の真ん中にある小さな池。
睡蓮が植わっているその池には小さな生物達が生活しています。
チカはそんな生物達を観察するのがとても好きでした。
おじいちゃんはその池の前に立っていました。
どうしたのかなと不思議に思ってチカがじっと見ていると、
おじいちゃんは、持っていた一輪の花を池へそっと投げました。
そして、チカには聞こえない小さな声でぽつりぽつりと何かを話しています。
少し、微笑みながら。
話しかけようかと思ったけれど、おじいちゃんにとってとても大切な時間なような気がして。
チカは話しかけることもできず、そっとお布団のある部屋へ戻りました。
そんなことがあってしばらくして、おじいちゃんが病気で入院してしまいました。
風邪をこじらせて、肺炎になりかかったんだって。
おじいちゃんは、チカの住む家から少し離れているから、
具合が悪いのも知らずにいたのです。
もちろん、お母さんはかんかんに怒りました。
「もう、具合が悪いなら早く言ってよ! 心配するじゃない!」
「すまんな。すぐに治ると思っていたから」
と、おじいちゃんはひたすら謝っています。
でもお母さんの怒りは止まりません。
お母さんはしばらくプリプリと怒っていましたが、
ちょっと落ち着いたのか、入院の手続きをしてくると言ってバタバタと部屋を出ていきました。
チカはそんなお母さんの後ろ姿を見て、ぽつりと言いました。
「お母さん、本当、心配してたんだからね」
もちろん、私もだけど。
「悪かった。寝てれば治ると思ってたからな」
ふうっとおじいちゃんは大きく息をはきました。
まだ大分しんどそう。
チカは近くにあった椅子をおじいちゃんのベッドの近くに寄せて座りました。
そして、尋ねます。
「ねえ、おじいちゃん。今、欲しいものとか、してもらいたいものとかある?」
おじいちゃんは少し目を丸くしていたけど、そうだなあとつぶやいた。
「一つだけチカにしてもらいたいことがあるな」
「何?」
「じいちゃんの家に、池があるだろう?」
「うん」
「そこにはな、人魚がいるんだ」
「え? 人魚?」
チカは首をかしげました。
人魚とは、童話に出て来るあの尾っぽが魚の形をした人間のことでしょうか?
「……おじいちゃん、おかしくなっちゃった?」
おじいちゃんは、ちょっと笑った。
「いやいや、信じられないかもしれんが、確かにあの池には人魚がいるだ。死んだばあさんのトモダチのな」
「おばあちゃんのトモダチ?」
「そうだ」
おじいちゃんはそう言って、再び大きく息をはいた。
「ばあさんは池の人魚と仲が良かったらしくてな。おしゃべりをしたり季節の花をあげていたりしたらしい」
「へえ」
チカが覚えているおばあちゃんは、甘い香りがしたのんびりほのぼのおばあちゃんです。
縁側でのんびりひなたぼっこしている、ふくふくとした猫みたいに。
そのおばあちゃんが。
人魚とオトモダチ?
人魚なんてありえない。
でも、おばあちゃんならありえるかも。
そうチカがうーんと悩んでいると。
おじいちゃんがぽつりと言いました。
「じいちゃんも、実際に会ったことがないから本当に人魚がおるのかわからん。
ただ、ばあさんにお願いされたからなあ」
「お願い?」
「ああ。死ぬ前にな、ばあさんがいなくなって人魚がさみしがるといけないから、
できるだけあの池に行って花を上げて欲しいとお願いされたんだよ」
「そうなんだ」
「取るに足らない小さな願い事だ。一つくらいかなえてやろうと思ってたんだが……」
「いいよ」
思わず、チカは言ってしまいました。
ぽろりと自然に言葉が出てきたので、チカもびっくりしました。
でも、おじいちゃんの方がもっとびっくりしたみたいで、
おじいちゃんは目をぱちぱちしました。
「チカ?」
チカはすうっと息を吸って、吐き出しました。
心がびっくりした時やざわざわする時、
大きく深呼吸すると落ち着くよとお母さんに教えてもらったからです。
そして。
「うん。あの池に花をあげればいいんでしょ? チカ、やってあげるよ」
チカは大きく頷きました。
次の日。
学校からの帰り道、チカはこっそりおじいちゃんの家に行きました。
あんまり遅くなるとお母さんやお父さんが心配するから、急いでやらないといけません。
花は庭にふよふよと咲いていたコスモスの花を一輪もらいました。
いつもいるおじいちゃんがいないと、庭はどこかよそよそしい感じがします。
まるで別のお庭みたいに。
チカは頭をふるふるとふって、池の前に立ちました。
真っ赤な夕焼けが池を照らして、キラキラしています。
チカはそっと池の中に花を投げました。
コスモスは池の水面でぷかぷかと浮いています。
「こんにちは」
チカは腰を下ろし、小さく呟きました。
「人魚さん。私、おじいちゃんの孫のチカって言います。おじいちゃんが入院しちゃって来れないので代わりに私が来ました。遅くなってごめんなさい」
チカは思い切って人魚に話しかけてみました。
だけど、なんの返答もありません。
しばらく待ってみたけれど、水面は静かで、花が静かに浮いているだけです。
チカはふうっとため息をつきました。
「……やっぱり、何にもいないじゃん」
人魚なんてうそばっかり。
チカは家に帰ろうとくるりと後ろを振り返りました。
そして、庭を出ようと歩きだした時。
「マテ」
と、後ろから声が聞こえてきました。
後ろは池です。他には何もなかったはず。
池から声が聞こえて来たと言うことは……。
恐る恐るチカが池の方を振り返ると。
池の中からひょっこりと小さな女の子の顔が出ていました。
なみなみとした長い金色の髪に、目はくりっとしていますが赤色でした。
頭には小さな角が2本生えています。
首から上しか見れなかったので、体がどうなっているかわかりませんが、
あきらかに人間とは違っていました。
……も、もしかして?
「人魚、さん?」
「タダシハイナクナッタノカ?」
「え?」
「タダシダ。チヅルノトコロヘイッタノカ?」
タダシ? チヅル? ああ!
チカは頷きました。
「おじいちゃんとおばあちゃんのことね。えーと、おじいちゃんはだいじょうぶです。
風邪をこじらせただけだから、1週間くらいしたら帰って来るよ」
「チヅルミタイニイナクナラナイ?」
人魚は心配そうに尋ねました。
おじいちゃんは風邪を引いただけで、すぐに帰って来るのに、
どうしてそんなに心配なんだろう。
チカは不思議に思いましたが、ふと思い出したことがありました。
そう言えば、おばあちゃんは急に具合が悪くなって病院へ入院したのです。
そして、一度も家に帰らないまま、そのまま病院で亡くなってしまいました。
人魚はきっとそのことを思い出しているのでしょう。
チカは人魚がかわいそうになって、大きく大きく頷いてあげました。
「いなくならないよ。だいじょうぶ」
「ソウカ」
人魚はこくりと頷くと、
「ワカッタ、アリガトウ」
と言って、池の中へ帰ろうとしました。
チカは慌てました。だって、まだ何も聞いてない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「ナンダ?」
「え、えーと、名前! 名前を教えてよ。私の名前は……」
「シッテル」
「え?」
「チカ、ダロウ? チヅルガヨクハナシテイタ。トテモカワイイコダッテ。ダカラオボエテイル」
「そ、そっか」
「ウン。ソシテワタシノナマエハ、リーナ」
「リーナ?」
「ソウ。チヅルガツケテクレタノダ」
そう言って、人魚のまりもはふわりと笑いました。
そして、ちゃぷんと池の中に潜り、そのまま消えてしまいました。
気が付くと。
夕焼けが夜へと近づき、辺りが暗くなり始めていました。
チカはしばらく池をじっと見つめていたけれど、何も変わらないので家に帰ることにしました。
花もいつの間にかなくなっているし。
どこから来たのか。
どうやっておばあちゃんと知り合ったのか。
わからないことだらけです。
でも、チカは人魚の最後の笑顔を思い出していました。
とてもうれしそうだったな。
きっと、おばあちゃんからもらった名前を大切にしてくれているのでしょう。
チカは何だかとてもうれしくなりました。
明日、おじいちゃんの病院へ行って話してあげよう。
人魚は本当にいて。
名前はリーナで。
おじいちゃんのことをとっても心配していたと、教えてあげよう。
そして、おじいちゃんが元気になったら。
一緒にリーナとお話をしよう。
そう心に決めて、チカはおじいちゃんの庭をあとにしました。
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お話「不思議な写真」

「不思議な写真」


最初は僕の10歳の誕生日だった。
届いたのは、一枚の写真。
きらきらと夕日に染まる海に一頭のクジラが雄大に泳いでいる……そんな写真だった。
差出人の名前はなかった。
ただ、「黒瀬 保様」と、僕の名前が書かれていただけだった。
がっちりとした力強くて男らしい字。
写真好きの真おじさんが届けてくれたのかなと、僕は思っていた。
それからも、僕の誕生日に不思議な写真が送られてきた。
その写真は、新緑の山の風景だったり、田舎のおじいちゃんやおばあちゃんの笑顔だったり、
海外の子供たちの楽しそうに水遊びしているものだったり、様々だった。
最初は誰の写真かもわからなくて、とても不気味だった。捨てようかとも思った。
真おじさんは、俺じゃないと言ってたし。
でも、僕は結局捨てられなかった。
だって、どの写真も温かくて優しくて。
見ていると心が柔らかくなってくる。
僕はいつの間にか誕生日に送られてくる写真を待ち望むようになった。
もちろん、届いた写真は全部大切にしまってある。僕の宝物だ。
そうして。
数年が経ち、僕は高校を卒業して大学生になった。
家から大学が遠いので、家を出て一人暮らしを始めた。
さすがにここまでは届かないだろうと思っていたら、誕生日の日、写真がちゃんと僕の家まで届いた。
見事に実った稲穂が揺れる美しい棚田の風景。
不思議だ。
相変わらずの男前の文字に、野郎のストーカーかよって思ったけど、ちょっぴり嬉しかった。
誕生日ごとに増えていく写真。
10枚は軽く超えてしまった。
いつも美しくて優しい写真を送ってくれるこの人は、一体どんな人なんだろう。
おっさんかな?
はたまた、イケメンのお兄さん?
白髭が似合うおじいさんとか?
そんな風にいろいろ考えているうちに、段々と僕はこの人に会いたいと思うようになった。
そして、25歳の誕生日。
一通の手紙が届く。
僕は差出人の名前を確かめた。
一週間程前から高知へ旅行に行っている彼女からだった、
ゆっくりと封を開け、中に入っている手紙を読む。
ようやく撮れた写真です。
保さんに早く見せたくて、先に送りますね。
僕はそっと封筒の中から1枚の写真を取り出した。
それは、きらきらと夕日に染まる海に一頭のクジラが雄大に泳いでいる、そんな写真だった。
随分男前な字を書くんだな。
僕はふっと笑った。