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さらさら日記

ぼちぼち のんびり ゆっくりと

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童話「赤鬼デンと花ごはん」2

童話「赤鬼デンと花ごはん」2


ある日の金曜日。
デンがめずらしく学校を休んだ。
風邪を引いたんだって。大丈夫かな?
いつも隣にいたデンがいないと、なんだかつまらない。
ぽっかり空いた隣の席を見ながら、オレは決心した。
あさっては日曜日。サッカーの練習もなかったし、デンのお見舞いに行こう!
日曜日になって、デンの家まで父ちゃんの車で連れて行ってもらうことにした。
なんたって、山二つ超えなきゃ行けないからね。遠いんだ。
手ぶらで行くのもさみしいから、おみまいにきれいに咲いたチューリップを持って行くことにした。
朝早く雨が降ったので、チューリップの花も葉っぱもつやつやしている。
このチューリップはオレが去年花屋さんで球根を選んで植えたものだ。
いろんな色の花が咲くように球根も一生懸命選んだんだ。
冬にピョコンと芽を出した時は本当に嬉しかったなあ。
デンにあげるのは、元気が出る黄色とかわいいピンクときれいな白色のチューリップ3本だ。
母ちゃんがきれいな紙に包んで花束にしてくれた。
喜んでくれるかな? デン。
細くてガタガタした道を父さんの車がグイグイ登っていく。
「父ちゃん、まだ?」
「もうちょっと!」
よいしょっと父ちゃんは車のハンドルをギュウッと回した。急カーブだ。
「おっとっと……。デンはこんなに遠い所から学校へ通ってたんだ。すげえなあ」
「そうだな。でも、近道があるかもしれないぞ。赤鬼だけが知っている秘密の道とか」
「そうかも! 今度デンに聞いてみよう!」
ぐふふふふと笑って、オレはめいっぱい窓を開けた。風が気持ち良い。
しばらく走っていたら、今まで道の横にあった木がなくなって、ぱあっと明るい所に出た。
道の前の方には大きな建物が見える。
「父ちゃん、あれ、デンの家?」
「そうだな」
ゴツゴツした岩を何個も重ねてできた重そうな家だ。でも、かっこいい。
父ちゃんは、家の前にゆっくりと車を止めた。
オレは花束を忘れないようにしっかりと持って、木でできたドアの前に立った。
そして大きな声であいさつをする。
「こんにちは。カン太です。デンのおみまいに来ました!」
「はーい」
と、大きくて低い声がドーンと聞こえてきた。
デンの父さんかな?
怖い赤鬼だったらどうしよう。
オレはごくりと唾を飲み込んで、隣に立っていた父さんの手をぎゅっと握った。
ギイっとドアが開いて、そこには鬼が立っていた。
デンにそっくりな、でも見上げるくらい大きな赤鬼が、
「いらっしゃい」
と言って、にかっと笑った。
……うん。さすがデンの父ちゃん。怖いけどそんなに怖くなかった。
デンの家の中は、外のゴツゴツした感じとは違って、太陽の光がちゃんと入って明るくてきれいだった。
オレは、デンの父ちゃんに案内されて、デンが休んでいる部屋へ行った。
(父ちゃんは、デンの父ちゃんと話すことがあるそうで、違う部屋で待っていてくれるらしい)
「デン、カン太くんが来てくれたぞ」
そう言って、デンの父ちゃんが部屋へ入るので、オレも一緒に入った。
デンはベッドで寝ていたけど、オレを見つけてムックリ起き上がった。
今日は家にいるからかな? 角も牙もちゃんと生えていた。ちょっとカッコイイぞ。
「カン太くん、今、飲み物を持ってくるから。ゆっくりしていきなさい」
「あ、ありがとうございます」
デンの父ちゃんは、ニカっと笑って、ドシドシ部屋を出て行った。
「ここ座ったら?」
デンがポンポンとベッドのはしっこをたたいたので、オレはそこに座らせてもらった。
「もう、起きてだいじょうぶなのか?」
「うん。熱も下がったし、月曜日には学校へ行けると思う」
「そっか、良かった。……あそうだ、これ、おみまい!」
オレはデンに持ってきたチューリップの花束を渡した。
デンはびっくりしたみたいで、花束とオレの顔を何度も見ていた。おかしい。
オレはぷぷっと笑ってしまった。
「どうしたの、これ?」
「だーかーら、おみまいだよ! おみまいには花をあげるんだろう? これ、オレが育てたヤツなんだ。
きれいに咲いたから、デンが元気になるかと思って持ってきた!!」
ふふーん、と思わずじまんしてしまった。
でも、デンはしばらくじっと花束を見ていて、何も言わない。
心配になってオレは思わず聞いてしまった。
「あれ、気に入らなかった?」
「ううん」
デンは首をぶんぶんとふった。
「花束をもらったことがなかったからびっくりしただけ」
「そっか? それ、ムノーヤクだから食べれるぞ」
「え?」
デンはまたびっくりしたように目を丸くした。
そしてふるふると首を振る。
「食べない」
「なんで?」
「だって、これはカン太がぼくにくれた花束だから」
花びんにいけてとっておく。
デンはきっぱりとそう言った。
オレは何だか恥ずかしくなってしまった。
だって、ただのチューリップなんだよ。
でも、うれしいな。
オレは思わずへへっと笑ってしまった。そうしたら。
「お待たせ」
デンの父ちゃんがおぼんにジュースを二個のせて持ってきてくれた。
オレとデンの分だ。
普通のおぼんなんだけど、デンの父ちゃん大きいから、おぼんがすっごく小さく見える。
何だかおかしいや。
オレはありがとうとお礼を言って、ジュースを受け取った。
ごくりと一口飲んだ。あ、ミカンジュースだ。
ちょっとすっぱかったけどすごくおいしい!
「父さん、カン太が花束持って来てくれた。かざりたい」
「そうか、カン太くん、ありがとう。かざらせてもらおう」
「ううん、こっちこそ、ジュースをありがとう」
「うむ」
そううなずくと、デンの父ちゃんはオレの頭を大きな手でぐしゃりとなでた。
そして、花束を持ってドスドスと部屋から出て行く。
「……デンの父ちゃん、迫力あるなあ」
「うん。でも、優しいよ」
「あ、それはわかる。でも、デンもあんなに大きくなるのかな? 今、こんなに小さいのに」
「父さんもぼくくらいの時は小さかったって。もう少ししないと大きくなれないみたい」
「そっか。大きくなるといいな。デンの父ちゃんかっこいいもんな」
「へへ。ありがとう」
うれしそうにデンは笑った。
その後、デンといろんな話をした。
デン家まで車で来るとすっごく遠かったって話をしたら、やっぱり特別な道があるんだって教えてくれた。
(でも、人間の子どもには結構きつい道らしい。オススメしないとも言われた)
ずるいよなあ。
あまり話さないデンがたくさん話してくれるので、オレはとてもうれしくなった。
もっとたくさん話をしたくて何か話すことないかなと考えていると、ふと、デンの花のごはんのことを思い出した。
今なら教えてくれるかな?
「あのさあ、オレ、デンにずっと聞きたかったことがあってさ」
「何?」
「デンは給食の時、花のごはんをたくさん持ってくるだろう?」
「うん」
「あれってさ、どうしてんの? いっつもきれいで新鮮な花ばかりじゃん。どっかのお店で買ってるのか?」
「違うよ。そこの窓開けてみて」
「う、うん」
デンの部屋に一個だけある窓をオレはガタンと開けた。
すると、そこには。
「うわあ、すげえ!」
びっくりした。だって、そこは一面花だらけだったんだ。
家のすぐ後ろに学校のプールぐらいの大きさの花畑があって。
いろんな花が咲いていて、ふよふよ風に吹かれて揺れている。
オレは思わず窓から顔を乗り出してしまった。
「デン、すげえよ。すげえ」
「カン太、あんまり乗り出すと、落ちちゃうよ!」
「わかった!」
オレは、体を元に戻した。
「あれ、デンの畑? 育ててんの?」
「うん。ぼくがたくさん花を食べるから、そのために育ててる」
「野菜を育てるみたいに?」
「そう」
こくりとデンはうなずいた。
そっか。オレはストンとなっとくした。
やっぱりデンは、花を盗んでなんかいない。買ってもいない。
ちゃんと畑で育てているんだ。
オレらが野菜を食べるために育てているように、デンもちゃんと育てている。
なんだ、そっか。
「デンは花が好きか?」
「うん、好きだよ」
「オレも花を育てるのが好きなんだ」
「知ってる」
「え、何で?」
「学校の花、いつもきれいに咲いてるから。カン太が手入れしてくれているんでしょう? 花はちゃんと手入れしてあげないときれいに咲かないこと、知ってる。そして、それが結構大変なことも、知ってる。好きじゃなきゃできないよ」
「そっか」
何だか心がほこほことあったかくなってきた。
デンが花を食べるために花を一生懸命育てていることも。
花が好きなことも。
そして、オレのこともちゃんと見てくれていたことも。
全部、全部、うれしかった。
デンは赤鬼で顔がおっかなくてでも優しくて。
花しか食べられない変わったヤツだけど、……良いヤツだ。
オレは思い切って聞いてみた。
「なあ、デンの花、育てるの、オレも手伝いたい」
「うん。いいよ!」
デンは大きくうなずいて、ニカっと笑った。

<終わり>
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