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ぼちぼち のんびり ゆっくりと
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久しぶりにお話を書きました。
ぎこちなさが目立ってかなり恥ずかしいのですが、今の私の精一杯の作品です。
よろしければ、どうぞ。
祥子は、朝早くから家の近くにある金子山を登っていた。
飲み物や簡単なおにぎりが入ったリュックを背負い、
左右の手には風呂敷に包まれた3段の重箱を持って。
その重箱には、今朝、母とふたりで一生懸命作ったあんこたっぷりのおはぎが入っていた。
3月に入ったとはいえ朝はまだまだ寒い。
家を出てから1時間は経っただろうか。
顔に当たる風を冷たく思いながら、祥子はようやく金子山の頂上に着いた。
そこは小さな広場になっていて、周りを覆う木々はないので、見晴らしがとても良い。
何より、広場の真ん中には大きくて立派なしだれ桜の木があって、お気に入りの場所だった。
見下ろす町は段々と明るくなっていく。
しばらく祥子は昔から変わらないその景色を見つめていたけれど、
ほっと息を吐き、しだれ桜のすぐ横にある木製のベンチに手に持っていた重箱を置いた。
背に負っていたリュックもベンチに下ろすと、重箱を包んでいた風呂敷をふわりとほどいた。
そっとフタを開ける。
そこには、つやつやした美味しそうなおはぎがぎっしり並んでいた。
良かった、つぶれてない。
祥子はそっと微笑んだ。
すると。
「ちょうだい!」
「!」
と、突然何もない所から声が聞こえて来た。すぐに、するりと男の子が現れる。
その男の子は、真っ白の着物を着ていた。
髪はふわふわの桃色で、目はまあるい緑色。小学校1年生くらいだろうか。小さくてお花みたいにとてもかわいい。
その子は毎年1番乗りで来てくれる男の子だった。
「こんにちは。今年も1番だよ。はいどうぞ」
そうにっこり笑って、祥子は男の子の前にすっと重箱を差し出した。
男の子はしばらくムムムと悩んでいたけれど、ようやく手前のおはぎを1個取った。
そして、
「ありがと」
と、ニコっと笑って、そのままするりと消えてしまった。
「相変わらず、すばやいなあ」
そう祥子がふふっと笑っていると、
「こんにちは」
今度は軽やかな声が聞こえてきた。
そこには、やはり桃色の長い髪をした美しい女の人が立っていた。
ふんわり笑いながら告げる。
「おはぎを下さいな」
「はい。どうぞ」
祥子はにこりと笑って、再び重箱を差し出した。
それからも、いろんな人がおはぎをもらいに来た。
どの人もさっきの男の子や女の人と同じように、白色の着物に緑の目、髪は桃色をしていたけれど。
おじいさん。おばあさん。女の子。男の子。若いご夫婦。元気そうな人。ちょっとしんどそうな人。
たくさんの人達がやって来ては、嬉しそうに幸せそうにおはぎをもらって帰って行く。
おはぎをたくさん作るのも大変だし、重たいおはぎを持って山を登るのも大変だけれど、
祥子は、そんな幸せそうな皆を見るだけで嬉しかった。
何より、今年はいつもと違って母とふたりで作ったのだから。
がんばって作って良かったな。
祥子はしみじみ思った。
<続く>