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字数の関係で、変な所で切れてしまいました。すいません。
続きをどうぞ。




「花を待つ」2


そして。

並んでいる人もいなくなって、とうとうおはぎが最後の1個になってしまった。

今年も残らなくて良かったとほっとしながら片づけを始めていると。

「残っておりますかの」

そう言って、真っ白な着物をきたおじいさんがひょっこりと現れた。

長老だ。

白色に近い薄桃の長い髪とひげが特徴の長老は、いつも一番最後に来るお客様だった。

祥子は片付けの手を止め、にこりと笑う。

「はい。いつものように、ちゃんと残っていますよ。今年は母とふたりで作ったので味が少し心配なのですが」

「そうでしたな。では、ありがたくいただくとするかの」

長老は笑って、最後のおはぎを取りベンチに座った。

そして、おはぎをかぷりとかじり、おいしそうにもぐもぐと食べると。

「……ああ、うまいのう」

そう、嬉しそうに呟いた。

「味は大丈夫ですか? 味を決める祖母が亡くなって、母も私もちょっと不安だったんです」

「大丈夫じゃよ。ちゃんと米原さんのおはぎになっとる」

「そうですか。良かった。母も喜びます」

「うむ」

二人はしばらくベンチから見える町を見ていた。

柔らかい日差しが町を照らしている。

何度も繰り返される、新しい朝だ。

「長老……ありがとうございました」

「何かな?」

「祖母が亡くなる少し前、会いに来てくれたのでしょう? 祖母が長老が来て下さったと喜んでましたから」

「おつるさんには世話になったからのう」

長老はふふっと笑った。

去年の秋、祖母が入院先の病院で息を引き取った。

本当は、喪中なのでおはぎを届けるのは止めようかと思っていたけれど、

祖母の願いもあって、何とか皆に届けることができた。

「人は、はかないものじゃなあ」

「はい」

「同時にいとおしいものでもある」

「はい」

ふわりふわりとしだれ桜の枝が揺れる。

静かに笑っているみたいに。

長老も楽しそうに目を細め桜を見ていた。

「去年の台風もなかなか大きくて、大変じゃった」

「そうですか」

「山肌が崩れて倒れそうなものもあったが、ようこらえてくれた」

「はい」

「皆、このおはぎを楽しみにしとっての。これがないと、花も咲かせられん」

そう言って、長老は最後の一片を口に入れた。味わうようにかみしめ、ごくりと飲み込む。

しばらく目をつむったままじっとしていたけれど、やがて目を開け祥子の方を向いた。

「今年もとてもとても美味しかった。また、来年もよろしくお願い致しますよ」

「はい!」

長老は、にこにこと笑いながら祥子の頭をなでると、そのままふっと消えてしまった。

すぐ横にあるしだれ桜に吸い込まれるように。

 

「……行っちゃったか」

ふうっと祥子は大きく息を吐いた。

祖母が亡くなって初めて作ったおはぎ。

何とか祖母の味を思い出しながら、母と試行錯誤を繰り返し作ったけれど。

美味しくなかったら怒られるところだった。

そりゃもう祖母はこのおはぎ作りを大切に大切にしていたから。

何でも、昔、祖母のおばあちゃんが、この山で迷ったことがあって、その時、あの長老に助けてもらったらしい。

そのお礼におはぎを上げたらすごく喜んでもらえて。

それ以来、代々米原家ではずっと続いている、大切なこと。

もちろん、私も続けていきたい。

私に子どもが生まれたら、その子どもにも。

きっと。

繋いでいく。

 

祥子はそっとベンチに座った。
置いてあったリュックを開け、おにぎりとお茶を取り出す。
母手作りのおにぎりはビックリするほど大きくて、いつも笑ってしまう。
祥子は包んであったラップを丁寧に取り、おにぎりにかじりついた。そして、モグモグと食べる。
具は鮭だな。うん。美味しい。
ああ、幸せだなあ。
そんな風に思いながら、祥子は町を眺めた。
本当にここはいつ来ても見晴らしが良くて、気持ちが良い。
目をつむり風を感じていると、ふと、彼らのことが思い浮かんだ。

「……それにしても」

祥子はくすりと笑う。

「長老も皆もうちのおはぎ大好きだよねえ」

うちのおはぎを食べないときれいな花が咲かせられないって、どれだけ好きなんだろう。

でも、ちょっと嬉しいかな

家族も皆、うちのおはぎが大好きだから。

「さて、そろそろ帰ろうかな」

おにぎりを食べ終えた祥子は、ゴミや水筒をリュックの中に入れると、そのまま背負った。

そして、空になった重箱を風呂敷に包み直し、行きと同じ左右の手に持った。

行きと違うのは、重箱の重さがうんと軽いこと。

みんなの笑顔を思い出しながら、祥子はそっとしだれ桜の木に触れた。

「今年もきれいな花を咲かせてくださいね」

また、来ますから。

応えるようにしだれ桜はふわりと揺れた。


<終わり>

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