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さらさら日記

ぼちぼち のんびり ゆっくりと

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クリスマス小話『どうか、かないますように』

クリスマス小話『どうか、かないますように』です。

下の続きを読むからどうぞ。

この街には、小さな商店街がある。

小さいけれど、安くて新鮮な食物が置いてあるお店が幾つも並んであるから、夕方になるとたくさんの人で賑わう、人気の商店街だ。
その小さな商店街の一角に、小さな小さな画廊がある。
名前は、『笹本画廊』。
古くて小さいので、一見、画廊には見えないのだけれど、画廊を使った人はまた借りたくなるという、不思議で味のある画廊なのだ。

その『笹本画廊』。
実はちょっと変わっている。
もちろん、画廊自体が変わっている訳じゃない。
画廊を切り盛りしているその店主が変わり者なのだ。

さて、その店主。名前は、笹本泰造と言った。
44歳、未だ独身。
ぼざぼさの真っ黒な髪に、これまた真っ黒なサングラス。
とてもじゃないが、画廊の店主には見えない。
その上、とてつもない頑固者だ。

彼は、
どんなに有名な画家でも、
どんなにお金を積まれても、
自分が気に入った作品以外は絶対に飾らないという頑固者。
逆に、
作者にお金がなくっても、その絵が気に入ったのならただでも飾らせるという変わり者。
どうせ自分の店なのだから、見ていて気持ちのいいものを飾りたい、それが彼、笹本泰造のポリシーだった。

そんな泰造の画廊には、今、毎年恒例のクリスマスチャリティーの作品が飾られている。
泰造の声で集まった画家達が、クリスマスにちなんだ絵を描いてくれているのだ。
そして、これらの作品を気に入って下さったお客様に購入してもらって、
その収益はクリスマスを送ることも難しい方々への募金として使わせてもらっている。

色とりどりの華やかな作品が並ぶその画廊の片隅に、3個のクリスマスツリーが飾ってあった。
高さが30㎝も満たない、手づくりの小さなツリー。
それらがアンティークの机の上にちょこんと並んであるのだ。
これらのツリーは、この画廊に良く遊びに来る3人の子ども達が持ってきてくれたものだ。
どうやら学校の授業で作ったらしい。
自分の家に飾れば良いのにと言ったのだが、いつもお世話になっている泰造の画廊に置いて欲しいとお願いされたのだ。
フェルトでつくられたハートや雪だるまの可愛らしい飾りがついてあるものは、あゆみちゃんのもの。
あゆみちゃんは、泰造がとても愛してやまないスイーツを作る斎藤さんの一人娘さんだ。
そして、色紙やキラキラ輝く綺麗な紙で星や球が飾られてあるのは、あゆみちゃんの同じクラスの水樹ちゃんのもの。
あゆみちゃんのものはふわふわの綿で雪を作っているが、
水樹ちゃんのものは金や銀色のモビールで飾られていて、随分と華やかだ。
そして、もう1個は、
「七夕と勘違いをしているのだろうか……」
と、泰造が思わずうなってしまったツリーで。
未来の画家候補の冬吾君が作ったもので、画用紙で天使の絵やジンジャークッキーの絵を書いたものをにぎやかに飾ってあるのだが。
同時に、名刺くらいの小さな紙に、願い事を書いて飾ってあるのだ。
それもたくさん。
しかし、その内容はどれも微笑ましいもので。
「おいしいものがたくさん食べれますように」
「みんなが病気になりませんように」
「先生が優しくなって、宿題が少なくなりますように」
そして。

「世界中のみんなが幸せになりますように」

「……今年はいろいろあったからな」
泰造はほっと溜息を吐いた。
今年の春に起こった出来事は、この子達にも大きな衝撃を与えたのだろう。
もちろん、今回のチャリティーで集まったお金は東北へ送ろうと思っている。
集まった作品達も、いつにもまして柔らかく温かく、心が安らぐものが多い。
画家達も願いはひとつ。

「どうか、どうか、みんなが心から安らげる日々が早く来ますように」

小さな小さなだけれど心のこもったその願いが。その祈りが。
全ての人に届きますように。
そう思わずにはいられない。
今日は、クリスマスイブ。
サンタさんも大忙しだろう。
そう思いながら、泰造はギャラリーを開ける準備を始めた。

<おわり>

++++++++++++

今年は書くのを止めようかと思っていたのですが、こっそり書いてしましました。
どうか、素敵なクリスマスをみなさんが送れますように。
どうか、願いがかないますように。

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