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ぼちぼち のんびり ゆっくりと
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リリイと花の種<1>
それは今年の春のことでした。
植物たちがゆっくりと目覚め、生き物全てがきらきらと輝き始めるそんなある日のこと。
リリイが朝ごはんの準備をしていると、コンコンとドアがなりました。
こんな朝早くに誰だろうと不思議に思いながらリリイはドアに向かいます。
猫のキットも眠そうにしながらリリイの横をついていきました。
「どちらさま?」
そう言いながらリリイはそっとドア開けました。
そこにはリリイよりももっと小さな男の子二人が立っていました。
真っ白な服を着て、双子なのでしょうか、二人ともそっくりです。
「「おはようございます」」
二人は同時にぺこりとお辞儀をしました。
「ぼくは、レイ」
「ぼくは、ライ」
そう名前を教えてくれたけど、あまりにもそっくりでリリイには区別がつきませんでした。
「私はリリイよ。この子はキット。御用はなあに?」
そうリリイが聞くと、レイがこくりと頷きました。
「おねがいがあってきました」
「おねがい?」
「そう」
今度はライがうなずきます。
そして、ポケットから小さな木の箱を取り出しました。
ぱかりとフタをあけます。
中には小さな何かの種が入っていました。
ライはリリイに良く見えるように、差し出します。
「これは、種?」
「はい。花の種です」
リリイはじっとその種を見つめましたが、あまり見たことがない種です。
「見たことがない種ね。何という花の種なの?」
そうたずねますが、二人とも首をなんども振るだけで何も応えてくれません。
リリイは何だか不安になって来ました。
「……ねえ、なんの御用でうちに来たの?」
レイとライは見詰め合って、うんとひとつ頷きました。
そして、リリイのほうを振り向くと、ライが言いました。
「これを植えて欲しいんです!」
「花を咲かせて欲しいんです!」
リリイは慌てました。
リリイは花は大好きですが、専門家ではありません。
何の花かわからないのに、育てるなんて絶対に無理です。
リリイは慌てて言いました。
「そんなの無理よ、できないわ。何の種かわからないのに育てられないわよ!」
でも、二人も負けてはいません。
「リリイなら、大丈夫!」
「リリイの庭の1番暖かい所に植えてくれたらいいの!」
「おねがい」
「おねがい。僕たち困っているの!」
「困っているの!」
今にも泣きそうな二人に、リリイは困り果ててしまいました。
困ってるのはこっちの方よ!
そう言いたくなりました。
でも。
「……わかった、やってみる」
リリイは根負けして、こくりと頷いてしまいました。
「ありがとう」
「ありがとう」
二人は嬉しそうに笑って、そっと木の箱をリリイに渡します。
「とってものんびり屋さんの種です」
「温かなお日様と新鮮なお水が大好きです」
「12月の24日の夜に取りに行きます」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
そう言って、二人はくるりと振り返り、あっという間に走って行ってしまいました。
あまりにも早いその姿は、まるで風の子のようです。
やがて、二人が見えなくなると、ぽつりとリリイが呟きました。
「ねえ、キット」
「ニャア……」
一人と一匹は顔を見合わせました。
「どうしようか、これ」
リリイは思わず受け取ってしまった木の箱の蓋を開けました。
ふかふかの布の上に置かれたその種は、ひまわりの種よりもちょっと小さくて丸っこい形をしています。
リリイはそっとその種をつまみました。
光にかざしてみます。
「なんの種なんだろうね、キット」
「ニャ」
「でも、お願いされたし、がんばる」
「ニャニャ」
リリイはパタンと玄関のドアを閉めて、途中だった朝ごはんの準備にかかりました。
<2へ続く>