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ぼちぼち のんびり ゆっくりと
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お話「赤鬼デンと節分の話―春を祝う―」
続を読むからどうぞ。
学校からの帰り道。
デンは一人で歩いていました。
とぼとぼ。とぼとぼ。
いつもよりもゆっくりゆっくり帰ります。
いつもは気にならないランドセルもお弁当箱も、何だかとっても重たくて。
「今日もいじわるされたなあ」
デンはぽつりと呟いて、大きく溜息を吐きました。
2月はデンが1年で一番嫌いな月です。
2月3日は節分の日。
この日は、デンが一番いじわるされる日なのです。
「鬼は外!」
「鬼は外!」
「デンは鬼なのになんでここにいるんだよ!」
「帰れ、帰れ!」
上級生でしょうか。
5、6年生の男の子達に、今日もそんな風にいじわるされました。
確かに、デンは赤鬼です。
真っ赤な顔に、もじゃもじゃの髪の毛。
牙と角は危ないので隠していますが、一目見たらバッチリ赤鬼と分かってしまいます。
でも。
「ボク、赤鬼だけど、何も悪いことしてないのになあ」
悲しくて辛くて。デンは、歩きながら泣きそうになりました。
そんな時です。
「デーン!」
後ろから大きくて元気な声が聞こえてきました。
デンが慌てて振り返ると、友達のカン太がこちらに走って来ています。
「カン太!」
「一緒に帰ろうぜ!」
そして、デンの目の前に着くと、ニッコリ笑いました。
二人は、大好きなお花のこと、学校のことなどいろいろ話ながら歩いていました。
「そう言えばさあ、明日、節分だよな」
「え、う、うん」
デンはドキっとしました。
実は、カン太に節分が嫌いなことを言っていないのです。
どうしよう。何か言われるのかな?
ドキドキしながら、デンはカン太の言葉を待ちました。
「オレさあ、節分って嫌いなんだよな」
「え、何で?」
「ほら、節分って恵方巻食べなきゃいけないじゃん? オレあれ嫌いなの。
でも、母ちゃんが食べろ食べろってうるさくてさー。あんなの嫌々食べてたら病気じゃないのに病気になっちゃうよなー」
あーあ。嫌だなあ。
そう言って、カン太はがっくりと肩を下ろしました。本当に嫌なのでしょう。
そっか、カン太も節分が嫌いなのか。
デンはちょっとだけうれしくなりました。
カン太の顔を見ずにうつむいて、ぽつりと話します。
「……ボクも節分嫌い」
「何で?」
「豆まきがあるから」
「鬼は外って? 何か言われたのか?」
「う、うん。でも、しょうがないよ、ボク鬼だし」
そうデンが言うと、突然カン太がピタリと止まりました。そして、
「ばっかだなあ!」
「!」
と、カン太が大声を上げたのです。
怒っているようにも聞こえたので、慌ててデンは顔を上げます。
案の定、カン太はむすっとした顔をしていました。
ボク、何か変なこと言っちゃったのかな?
少しだけ元気になっていたのに、デンはまた泣きそうになってしまいました。
そんなデンに、カン太は怒ったように話します。
「いいか、節分の豆まきは、病気や災害なんかの悪いことを祓うためにやってんの。
昔の人はさ、そんな悪いこと全部ひっくるめて鬼のせいだって決めちゃったんだ。
だから、鬼は外!って言うようになったんだ。
ひどいよな~。鬼だってデンみたいに悪くないやつもいたかもしれないのに」
「そうなの?」
「そう。デンはちっとも悪くない。だから言われても気にするな。からかうやつがバカなんだ!
でも、ひどかったらちゃんとオレに言えよ。ぶっとばしてやるからな」
そう言って、カン太はニヤッツと笑いました。
デンはうれしくてうれしくて、大きく頷きました。
「うん!」
「よし!」
カン太も負けずに頷きました。
二人は再び歩き始めました。
カタカタとなるランドセルもどこか楽し気です。
「オレさ、今年は鬼は外!って言うの止めようと思ってんだ」
「え? 何ていうの?」
「ワルイヤツ、みんな外!って」
「ワルイヤツ?」
「そうそう。鬼って言ってもデンみたいに良いヤツもいるかもしれないからさ。
ワルイヤツだとワルイヤツしか入って来れないからな」
「ふうん、いいね」
デンが感心してそう言うと、カン太は自慢げにへへっと笑いました。
「だろ? で、デンの家はどうすんの? 豆まきするのか?」
デンはフルフルと首を振りました。
「ううん。ボクの家は豆まきはしないで、立春のお祝いをするの」
「立春のお祝い?」
「そう。また春をお迎えすることができました。ありがとうございますって、感謝を込めてお祝いするんだ。
父さんは朝一番に絞ったお酒を飲んで。
ボクは朝一番に汲んだお水でお茶を入れて、朝作ったうぐいす餅を食べるの。
今年も一年元気に過ごせますようにお祈りしながら食べるんだ」
まだまだ寒くて春の気配は見えないけれど。
父さんと一緒にお酒を飲んだり、うぐいす餅も食べたりして、
ゆったりと春をお迎えするその時間がデンは大好きでした。
「へえ、いいな、それ。絶対そっちのほうがいい!」
「そうかな?」
「おう! ……でも、デンの家は豆まきやらないんだな」
くふくふとカン太が笑います。
何がおかしいのかな?
そう不思議に思ってデンが聞きました。
「そうだよ。何かおかしい?」
「ううん。そりゃそうだよなって思ってさ」
「何が?」
「だってさ、あんな怖い父ちゃんいるんだからする必要ないもんな。
立ってるだけでワルイヤツみんな逃げちゃう」
「ひどいなあ。父さんはとっても優しいよ」
「知ってる!!」
シシシシとカン太は笑いました。
つられてデンも笑ってしまいます。
そんな風に楽しくおしゃべりしながら歩いていると、やがて、分かれ道にやって来ました。
デンは右に。
カン太は左に、それぞれ曲がります。
「じゃあな、デン。また、月曜日にな!」
「うん。またね」
バイバイと手を振ってカン太は駆けて行きました。
デンも、よしとランドセルを背負い直し、空のお弁当箱の入っている大きな袋を持ち直すと、
カン太のように家に向かって駆け出しました。
少し前の自分がうそみたいに、体が軽くて軽くて。
デンは空に飛んで行ってしまいそうな気がしました。
春は段々と近づいてきています。