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ぼちぼち のんびり ゆっくりと
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私は倉橋さん家のチューリップだ。
小さな庭の片隅にたった一人で咲いてしまった。
と言うのも、一昨年、ママさんはこの場所で我々チューリップの球根を植えた。
きれいに咲きそろった我々を見て、みなさんそりゃもう喜んでくれたものだ。
そして、咲き終わり枯れてしまった我々をママさんは丁寧に掘り起こし、涼しい所へ保管してくれた。
はずだったのに。
何故か私だけ取り残されてしまったのだ。
おっちょこちょいのママさん、球根の私のことを見つけられなかったのであろう。
そんなことも露とも知らず、私はのんびり眠りについた。
春に花を咲かせるために。
寒い冬を超え、ようやく温かな春を感じ始め頃、私はゆっくりと芽を出した。
たくさんの兄弟たちと会えるのを楽しみにしながら。
……しかし、周りには誰もいなかった。
私はかなり驚いた。
会いたかった兄弟たちは、他の場所でゆうゆうと芽を出している。
何たること!
私は一人になってしまった。
このままでは、私がここにいることすら誰も気がついてくれないだろう。
どうしたものか。
私は一生懸命考えた。
が、明確な答えは出なかった。
それならば!
私は決めた。
私の務めを全うするべく努力することに。
そう。
私の務めは「美しく咲くこと」なのだ。
一人きりでも、私はチューリップだ。花なのだ。
美しく咲くために私は存在するのだ!
私は、美しく咲くために力を込めた。
例え、誰にも見つけてもらえなかったとしても。
志穂ちゃんがお母さんのお手伝いで庭の掃除をしていた時です。
「あれえ?」
庭のすみっこにあるものを見つけました。
びっくりして、大声でお母さんを呼びます。
「おかあさーん、ちょっと来てー!」
「はーい。ちょっと待ってね!」
少し離れた所で植木鉢に新しい花を植えていたお母さんが、急いで志穂ちゃんの所へやって来ました。
「どうしたの? ダンゴムシでもいたかな?」
「ううん、違うよ。ほら、これ!」
「ん?」
志穂ちゃんの小さな指の先には、緑色のこれまた小さな芽がひょっこりと頭を出していました。
「これって、チューリップさんの芽だよね」
「正解! よくわかったわね、志穂ちゃん」
「だって、あっちにいるチューリップさん達のお世話をしているんだよ。わかりますよー」
「そうでしたね」
へへっと志穂ちゃんは得意げに笑いました。
今年新しくプランターで植えたチューリップ達の世話をしているのは志穂ちゃんでした。
水をやったり、虫に気を付けたり。
芽が出た時なんて、嬉しくって飛び上がって喜んだ程です。
毎日ちゃんとチューリップのことを観ているから、志穂ちゃんにはすぐにわかりました。
「でも、なんでこんな所にひとりぼっちで芽を出したんだろう」
「あー、それはお母さんのせいかもしれない」
「おかあさんの?」
「うん。去年はここにたくさんチューリップを植えていたでしょう?
花が終わって球根を取り出す時、うっかり取り忘れたんだと思うわ」
「えー、この子だけ?」
「そう、この子だけ、おいてけぼりにしちゃったの。ごめんね」
お母さんがチューリップにあやまりました。
「……そっか。おまえ、おいてけぼりのチューリップなのか」
志穂ちゃんはしゃがみ込んで新しく芽を出したひとりぼっちのチューリップを見つめました。
つやつやしたきれいな緑色。
暗い土の中から一生懸命芽を出したのでしょう。
「うん、決めた!」
志穂は大きく頷くと、すくっと立ち上がりました
「志穂ちゃん?」
お母さんも慌てて尋ねます。
「私、この子応援する!」
「応援?」
「そう。おいてけぼりにされちゃったけど、ひとりじゃないよ。ちゃんと見てるからがんばれって応援するの。
そうしたら、さみしくないでしょ」
「そうだね。志穂ちゃんに応援してもらったら、きっとこの子も元気が出るわ」
「うん!」
志穂ちゃんはもう一度しゃがみ込んで、チューリップの芽を見つめます。
「どんな花が咲くのかなあ」
「そうね。この辺はピンク色のチューリップが多かったからピンク色かな?」
「ええ、志穂はね、黄色の花が咲くと思うな! キラキラできれいな黄色のチューリップ!」
「ふふ、咲くといいわね」
「うん!」
ピンク色かな?
黄色かな?
赤色もステキだけど、白色もきっとキレイ。
どんな花が咲くのかわかりませんが、志穂ちゃんは、お世話をしながらずっとずっと応援するつもりです。
「早く会いたいなあ」